13生活保護費の返還義務とは?不正受給の代償を行政書士が解説
生活保護費の返還義務とは?不正受給の代償を行政書士が解説
いちかわ行政書士事務所の市川です。
日本のセーフティネットとして機能する生活保護制度は、生活に困窮する人々にとって最後の砦となる重要な制度です。しかし、この制度を適切に維持していくためには、制度の正しい理解と適正な運用が不可欠です。
今回は、生活保護制度においてしばしば誤解や疑問の対象となる「生活保護費の返還義務」と、特に悪質な「不正受給の代償」について、行政書士の視点から詳しく解説します。
生活保護費は原則として返還不要?
まず、大前提としてお伝えしたいのは、生活保護費は適正に受給されたものである限り、原則として返還義務はありません。
これは、生活保護が「最低生活を保障するための最後のセーフティネット」であり、その性質上、貸付ではなく給付であるからです。生活保護を受給する方々は、その時点での生活が困窮していると認定されており、生活の立て直しのために支給されるお金なのです。
しかし、「原則として」という言葉があるように、例外的に返還義務が発生するケースがあります。
返還義務が発生する主なケース
生活保護費の返還義務が発生するケースは、大きく分けて以下の2つです。
1:収入があったにもかかわらず、届出を怠った場合
生活保護は、世帯の収入が最低生活費を下回る場合に支給されます。そのため、就労による収入、年金、手当、または親族からの仕送りなど、何らかの収入があった場合は、速やかに福祉事務所に申告する義務があります。この申告を怠ると、本来であれば支給額が減額される、あるいは支給停止となるはずだったにもかかわらず、過剰に保護費を受け取ってしまった場合、その過支給分は返還しなければなりません。
これは、意図的であるかどうかにかかわらず発生します。例えば、「パートで働き始めたが、まだ収入が少ないから大丈夫だろう」と安易に考え、届出を忘れてしまったような場合でも、返還の対象となります。
2:不正な手段によって生活保護費を受給した場合(不正受給)
これが、今回のテーマのもう一つの柱である「不正受給」です。虚偽の申請や申告、または意図的な事実隠蔽によって、本来受給資格がないにもかかわらず保護費を受け取った場合、全額または一部の保護費を返還する義務が生じます。
不正受給の具体的な例と、その「代償」
不正受給は、生活保護制度に対する国民の信頼を損ねる行為であり、決して許されるものではありません。具体的な不正受給の例としては、以下のものが挙げられます。
-
収入を隠す:アルバイト収入、年金、仕送り、ギャンブルによる収入などを申告しない。
-
資産を隠す:預貯金、不動産、自動車などを所有しているにもかかわらず、それらを隠して申告しないない。
-
世帯状況を偽る:同居している家族がいるのに単身世帯と偽る、あるいは離婚したのに夫婦として申告し続けるなど。
-
扶養義務者の情報を偽る:扶養義務者の情報(連絡先、収入など)を偽り、扶養照会を妨害する。
そして、不正受給が発覚した場合の「代償」は非常に重いものとなります。
-
保護費の全額または一部返還:不正に受給した保護費は、全額返還が命じられます。状況によっては、利息が加算される場合があります。
-
割増徴収:悪質なケースでは、返還すべき金額の1.4倍(不正に受給した金額の40%増し)が徴収されることがあります。
-
法的措置(刑事告発):詐欺罪(刑法246条)に問われる可能性があり、逮捕・起訴され、懲役刑や罰金刑に処される場合があります。実際に、不正受給で逮捕されるケースは後を絶ちません。
-
新規申請の困難化:一度不正受給が発覚すると、将来的に困窮した際に生活保護の再申請が非常に困難になる場合があります。
-
社会的な信用失墜:不正受給は犯罪行為であり、その事実が明るみに出れば社会的な信用を失い、周囲からの信頼回復も困難になります。
正しい知識と適切な手続きを
生活保護制度は、困窮する人々を救済するための大切な制度です。この制度が正しく機能し続けるためには、受給者側の「知る義務」と「申告義務」が非常に重要になります。
もし、生活保護の受給中に収入状況や世帯状況に変化があった場合は、たとえ些細なことでも速やかに福祉事務所に相談し適切な手続きを行うことが何よりも大切です。
当事務所では、生活保護に関するご相談も承っております。制度についてご不明な点がある方、または生活保護の申請をご検討中の方は、お気軽にご連絡ください。適切な知識と手続きで、皆様の生活再建をサポートいたします。